30 血尿の価値がある人生か

20191114 木曜日

 

 もう無理だと思う。少なくとも、このままでは。

 

 つらくて、深夜の午前3時まで安いウィスキーを飲んだ。寝酒が欠かせなくて、ストックしておいた酒がみるみる少なくなっている。喫煙も今まで飲み会などに限っていたのだが、8,9月以降は一日に吸う量が増えている。

 午前7時ごろに起きて、トイレに行ったら、トイレットペーパーに血がにじんでいた。おかしい、生理はつい最近終わったばかりだ。もしや、と思う。同業者には何人も血尿を出した人間がおり、焦った一方「ああ、私にもか」と思った。

 上司に連絡し、初めて泌尿器科に行った。正直、山手線の広告などで「泌尿器科」の文字を見たところで、お世話になることなんてないーーと高をくくっていたが、ついに助けを求める羽目になったわけだ。

 採尿カップを受け取り、検体を取った。「勘弁してくれよ」と思いながらカップに目をやると、黒々とした液体が視界に入った。明らかに、血そのものだ。酸化しきって真っ黒になったような血。25年生きてきたが、こんな血の色は見たことがなかった。怖かった。「まだ死にたくない」と思った。

 結局、診断はおそらく膀胱炎だろうということだった。心当たりはいくつもある。仕事への熱意が完全に失われたことへの焦燥感、給与や賞与への不満、将来への恐怖、「自分の人生はこれでいいのか」という絶え間ない苦悩。仕事への熱意が失われたのも、精神的な要因に加えておそらく身体的な要因もあるだろうと思う。何もかもが蓄積し、むしばまれている。このところ、頭痛や慢性的な体調の悪化、抑うつ的な気分などに悩まされており、血尿もそのうちの一つに過ぎない。

 膀胱炎ならばまだいいが。あの黒い血、何かの感染症にかかった人が吐いたような、真っ黒な血が怖い。色について、医師は「大きな血管で炎症を起こしているのだろう」と私を落ち着かせるように、そして同時に困り顔で言っていたが、本当にそうであればいい。大きな病でなければいい。

 ここ最近は、つらい。仕事もつらい、生活をしていくこともつらい。何もかもがつらい。最高の人生を送りたい。誰もが最高の人生を送れる努力ができるわけではないが、まだ遅くはないだろう?と自分に言い聞かせる。血尿なんて出すくらいなら、もっと価値のある人生を送って死にたい。